企業が内部監査の人材確保と育成に苦戦する中、監査に求められる役割は急速に変化しています。
監査業界はこれまで大きな進化を遂げることなく、イノベーションや業務自動化の面で遅れをとるリスクを抱えています。その結果、業界の魅力が低下し、監査人を目指す人材が減少しているのが現状です。しかし、これは企業にとって、監査業務を見直し、デジタルスキルを持つ監査人を惹きつける環境を作る絶好のチャンスでもあります。
特に、新しい世代の監査人は、付加価値の高い業務に専念できる環境を求めています。インテリジェント・オートメーションや人工知能(AI)を活用し、単純作業を減らすことは、彼らにとって理想ではなく必要不可欠な条件です。監査業務を近代化しなければ、非効率な業務プロセスの継続、人材流出、さらにはビジネス価値の低下を招く可能性もあります。
このような状況の中、従来の監査手法に固執する企業は、今後ますます人材確保が難しくなるでしょう。監査チームの維持はもちろん、外部パートナーとの協働にも影響が出る可能性もあります。
デジタル監査の必要性
従来の手作業中心の監査業務は、データを活用し自動化されたAI支援型のワークフローへと移行しつつあり、監査人はリスク分析やアドバイザリー業務など、よりハイリスクな業務に集中できるようになってきています。
私たちは、「Excelの使用はもうやめましょう」と言っているわけではありません。Excelでの作業をよりスマートにし、検証を迅速に行うためのツールをうまく活用していくことが今後の鍵となるのです。
監査人は、ただデータを手入力するためにこの職業を選んだわけではありません。彼らのスキルは、データを正しく分析し、的確な判断を下すことにこそ活かされるべきです。そして、オートメーションはその能力を最大限に引き出すための手段となります。
進化する内部監査の役割
内部監査は単なるコンプライアンスチェックやリスク評価を超え、企業の戦略的意思決定をサポートする存在へと進化しています。経営層は、リアルタイムのデータ分析を活用したコンサルティング的なインサイトを監査人に求めています。
この変化に適応するには、監査プロセス、使用ツール、必要スキルの全面的な見直しが必要です。Audit Transformation(監査業務の変革)とインテリジェント・オートメーションは、この進化の中心にあります。自動化、高度な分析、AIによるリスク評価、継続的監査を組み合わせることで、監査の価値を飛躍的に向上させることができます。
目的は単なる業務効率化ではなく、監査を企業戦略に統合し、リアルタイムでリスクを軽減しながら、戦略的なインサイトを提供することにあります。
それでは、この内部監査の進化を加速させる重要なポイントを見ていきましょう。
- ビジネスアラインメント - リスク管理の高度化とビジネス価値の創造のために、内部監査を企業戦略の一環として組み込みます。ビジネスプロセスとその結果に重点を置いた、よりアドバイザリー的な役割を監査人は担うようになります。
- テクノロジーの活用とインテリジェント・オートメーション - AI、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、機械学習を活用して、監査人が手作業によるデータ収集から分析や検証に重点を置けるようにします。
- 監査人の役割の再定義 - 監査担当者がデータ入力者から戦略的アドバイザーへ変化することで、データ分析、予測分析、サイバーセキュリティの専門知識を身に付けます。
- 文化(世代)とスキルセットの変革 - デジタルツール、データサイエンス、業務自動化戦略に関する監査人のスキルを向上させ、新しいテクノロジーを効果的に活用できるようにします。あるいは、自動化されたビジネスプロセスを若い世代の監査人に提供し、人材確保を図ります。
これらは、業務効率化や業績向上だけを目的としているのではなく、内部監査チームの潜在能力を最大限に引き出し、「コンプライアンス上必要な存在」から「戦略的ビジネスパートナー」へ監査の役割を高めることを目的としています。
では、企業として、この変革を迅速かつ構造的な変化として推進するために必要なステップとは何でしょうか?以下では、ご紹介した重要な4つの変革ポイントを加速させるための具体的なステップについて探っていきます。
ビジネスアラインメント
このポイントの目的は、内部監査を企業全体の戦略に組み込み、プロアクティブなビジネスインサイトの提供、リスクの検証、そして価値創出を実現することです。
- 監査チームの目標と企業目標を整合させる: 監査がコストの最適化、リスクの低減、戦略的意思決定にどのように貢献できるかを積極的に示します。
- 経営層との連携を強化・改善する: 監査チームがビジネス戦略の議論に積極的に参加し、初期段階でリスクに関するインサイトを提供できるようにします。また、意欲のある若手人材をリーダー層とつなぎ、モチベーションを維持できる環境を整えます。
- リスクベースのアドバイザリーフレームワークを構築する: コンプライアンス主導の監査から、実際に明確なビジネス価値をもたらすリスク評価へとシフトします。
- プロアクティブな監査ロードマップを作成する: 予測型リスク管理モデルを導入し、問題がビジネスに影響を及ぼす前に先回りして対応できるようにします。監査チームが企業の計画プロセスの一部を担い、ビジネスのリズムに溶け込めるようにします。
- 成果の可視化: 監査がビジネスの効率向上、リスク軽減、業務の成功にどのように貢献しているかを示すKPIを策定し、企業全体に共有します。
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テクノロジーの活用とインテリジェント・オートメーション
このポイントの目的は、AI、インテリジェント・オートメーション、機械学習、RPAを活用して、定型業務を自動化することです。これにより、監査人は手作業から解放され、分析や検証業務に集中できるようになります。
- 現行の監査プロセスをレビューする: 自動化するのに最も適した候補となる、高頻度で実行され、多くの手作業を伴い、特に繰り返し発生するプロセスを特定します。
- インテリジェント・オートメーションのツールを選定・導入する: 資料検証、ワークフロー自動化、AI搭載の評価ツール、データ&アナリティクスなど、監査業務に適したツールを選定し、導入します。
- AI&オートメーションのガバナンスモデルを構築する: AIを活用した監査のための明確な戦略方針を策定します。ここで重要なのは、AIが企業にとってどのような意味を持つのか、精度、コンプライアンス、監査の信頼性を確保することです。また、重要な場面ごとに監査人が自動化された業務を検証する仕組みを整え、各ポリシーに対するセキュリティ対策を確立することが求められます。
- トレーニングと実践的な学習を提供する: 実際に手を動かして学ぶ機会を提供します。インテリジェント・オートメーションの真の価値は、実際にその効果を体感したときに初めて明確になります。また、監査人が新しい働き方に適応し、AIや自動化を信頼できるようにするためにも、トレーニングは不可欠です。
- 継続的なモニタリングと最適化を行う: ローマは一日にして成らず。テクノロジーやインテリジェント・オートメーションの真価を初日から最大限に引き出すことは難しいでしょう。そのため、継続的に効果を測定し、最適化を図ることが重要です。
監査人の役割の再定義
このポイントの目的は、監査人の役割をデータ入力者として膨大な手作業をこなす存在から、予測分析、(サイバー)セキュリティ、リスク軽減に注力する企業の戦略的アドバイザーへとシフトさせることです。
- 職務と責任を再評価する: リスクコンサルタントおよびビジネスアドバイザーとしての内部監査人に対する新たな期待を明確に定義します。可能であれば、現役の監査人と共にこのプロセスを進め、新たな視点への意欲や期待を把握することが理想的です。
- テクノロジーに関する継続的なスキルアップ: 情報の抽出や突合といった一般的な業務が、RPA、AI、大規模言語モデル(LLM)によってどのように変化するのかを中心にトレーニングを実施します。監査の基本原則自体は変わらないため、ツールベースのトレーニングに移行することが重要です。
- 予測能力を身につける: 過去の監査結果に基づくだけでなく、AIを駆使した予測モデルを活用し、将来のリスクや意思決定を見越せるようにします。
- 戦略的関与の強化: 監査チームを経営戦略の策定プロセスに積極的に関与させ、彼らのインサイトをビジネスの意思決定に活かせるようにします。
文化(世代)とスキルセットの変革
この変革要素こそが、未来を作ります。次世代の監査人がデジタルスキルを備え、オートメーションを活用できるようにすることで、優秀な人材を引きつけ、定着させる環境を整えましょう。
- デジタルL&Dプログラムを作成: AIを活用した監査、オートメーションツール、データサイエンスに関するトレーニングを提供します。
- Gen Z+世代向けに監査プロセスを最新化する: 手作業の削減、紙ベースのプロセスの排除、スプレッドシートへの依存度を下げ、よりスマートなワークスペースを提供します。
- 積極的なコラボレーションの推進: シニア監査人とテクノロジーに精通したスタッフをペアにし、スキルを相互に学び合う環境を整えます。
- 柔軟でデジタルファーストな職場文化を確立: クラウドベースやAIを活用した監査ツール、リアルタイムでコラボレーションできるプラットフォームを提供し、リモートワーク環境を整備します。
監査の影響力を可視化し、未来の才能を引き寄せる
監査人も他のプロフェッショナルと同じく人間です。自分の仕事が影響力を持ち、誇りを感じられる環境があってこそ、効果的に働け、成功を実感できます。
その代表的な例が、航空業界の内部監査チームです。彼らは、毎年何百万人もの乗客を輸送するために、極めて重要なプロセスの監査とコンプライアンスの確保を行っています。しかし、その乗客のうちどれほどの人が、自分が感じている安心感と安全性が、組織内の監査人たちの努力の賜物であることに気づいているでしょうか?
この記事の内容を実践すれば、監査チームの組織内での存在感を向上させ、彼らが成功するためのツールを提供できます。これにより、現在の優秀な人材を維持できるだけでなく、将来の優れた人材を惹きつける差別化要因にもなるでしょう。
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